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「よし」
数秒ほど私をいじった後、センパイはテーブルに手をついて立ち上がった。
「あっ」
「どうかした?」
「い、いえ」
センパイの掌の温もりが、名残惜しくて。
なんて言えるハズないじゃないですか。ばかっ。
「あら、もしかして明人クンじゃない?」
立ち上がったセンパイを見て、ひとりの女の人が親しげにセンパイの名前を口にした。
「マリアさん」
センパイがマリアと呼んだ女性は、見た目大家さんと同じくらいだとは思うけど、女の私にも分かるくらいの、なんというか、健康的なエロスをその身から醸し出していて、良い意味で年齢以上に大人びた雰囲気を纏っていた。
「元気?」
「ええ、おかげさまで」
「まだあそこに?」
「いえ、実はもう引っ越しちゃいました。折角紹介してもらったのに」
「いいのよ。お隣さん、すごく気難しそうな人だったものね。気にしないで」
センパイはぺこりと頭を下げる。
「ふふ。それじゃね、明人クン」
ふりふりと右手を小さく振って、マリアさんは向こうの席に行ってしまった。
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