お(隣)付き合い。

6/22
前へ
/22ページ
次へ
「ここ、空き部屋ですよ?」   夕方、アパートに帰ってきた私は、件の部屋から出てきた、掃除に来ていたらしい大家さんの一言に驚愕した。 「えっと、本当に?」   こんな嘘ついてもしょうがないと思うんですけど。とでも言いたげに大家さんは頷く。 「ほら、ひとっこひとりいないでしょう?」   大家さんに促されて私も中を覗いてみる。   本当に何もない。 人どころか、そこには家具一つありはしなかった。 「おかしいな。昨日、あんなに騒がしかったのに」 「騒がしかった、ですか?」   大家さんの質問に、私はハイと答えた。 「かなり盛り上がってましたよ?だから私、てっきり友達でも呼んで引越し祝いでもしてるのかなって」 「や、やめてくださいよ。わたし、オカルトとか、ホラーとか苦手なんですから」   そういうつもりで言ったんじゃないんだけどな。 でも、いつも凛々しい年上の女性が(いっても大家さんは二十代前半だけど)、おどおどしている様子には、女の私も不覚にもキュンとしてしまった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加