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「初枝先生も、お世話になりました」
鈴原の祖母に向かって改めて深く頭を下げる。
初枝は真面目な顔で頷いてくれた。
「いつでもいらっしゃい。……彬を、お願いしますね」
「ばあちゃん……」
鈴原が目を見張って小さく呟く。
初枝は鈴原の方を見やって軽く睨んだ。
「お前はもう少しマメに連絡を入れてちょうだい。私だって心配するのよ」
眼鏡の奥の目がさらに丸くなる。慌てた様に何度も頷く。
「う、うん……っ」
初枝も鈴原も、またお互いに下を向いて照れ合っているのをみて、鈴原がこの場所で、この人の元で育てられて良かったと心から思った。
じゃあ、と手を振って別れた。
三人がロータリーに降りて行き、階段上の少し離れた位置から車に乗り込んでいく様子を眺める。──と、ドアに手を掛けた晴海が動きを止め、思い切ったように振り向いた。
「晴海?」
運転席に乗りかけた智晴が、訝し気に顔を上げる。
振り返った晴海の睨むような目と、目が合った。
そのままずんずんと大股でこちらに戻ってくる。
宮坂の真正面に立ったときには、晴海は首まで真っ赤になっていた。
「あ、あのさ」
目の前に立った見下ろす位置にある顔を瞬きして眺める。
「あ、あの……っ」
握り締められた拳はぷるぷると震えていた。
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