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「彬さん、コーヒーで良かったかしら」
首を伸ばすように笑顔が振り向けられる。
彬は慌ててソファから立ち上がった。
「あ、はいっ。コーヒー好きです!ありがとうございます」
「ふふ、そんなかしこまらないでいいのよ。もっと寛いでちょうだい」
戸を閉めた宮坂が慣れた手つきで盆を受け取り、エスコートするように志摩子を座らせる。
自分もなにか手伝った方がいいのかとおたおたする間に、三人でテーブルを囲む形になっていた。
おずおずと座り直しながら、さっそく少しだけしょぼんとなる。ちょとでもいい所を見せたいのに、あたふたするばかりで宮坂のようにスマートにいかない。
室内にコーヒーのいい匂いが漂う。
「ごめんなさいね、散らかってて。持ち込んだ仕事はここでしているから」
「いえ、こちらこそ急におじゃましてしまって」
「私は大歓迎よ。ずっと会ってみたかったって言ったでしょう?」
そうは言われても、カップを持つ手は震えてしまいそうだ。
嫌われるわけにいかない。何一つ、絶対に失敗できない。
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