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「襟、曲がってますよ」
「え?」
昨夜のことを思い返していて一瞬ぼんやりしていた。
宮坂が襟元に手を伸ばしてくるのに少しだけ顎を上げて、されるがままに身を任せる。
長い指の爪の先が首筋に僅かに触れて、上向いたまま身じろぎした。
襟元に視線を落としていた宮坂が目を上げ、なんとなく気恥ずかしくなって彬の方は視線を逸らした。
双方の間に息苦しいような沈黙が落ちる。
気づけば、宮坂の手の動きは止まっている。けれどその指先は鎖骨の辺りに触れたまま、襟元にとどまったままだ。
彬は戸惑いながら、そろりと身を引いた。
次の瞬間、引き止めるように肩を掴まれ、ハッとなる。
「な、なに?」
「え……あ、いえ」
手はすぐ離れていき、咳払いして目を逸らされた。
長い睫毛を伏せ気味にした目元が、朱を帯びているように感じた。
そんな様に再びな色気を感じてしまって、またドキドキしてくる。
表情から視線引き剥がしても、こちらに向けられた露わな首筋や、タオルの端を掴む指の長い手になんかに今度は目が行ってしまう。──あの手に触れた時の、少し骨ばった感触。
(俺、さっきからこんなことばっか……)
項垂れてつい卑下しそうになるが、そこはぐっとこらえた。
いや、だめだ。そうやってすぐ卑屈になったり後ろ向きになったりする癖は直さなければ。
ちょっとくらいでへこたれない人間に、宮坂の恋人に相応しい人になりたい。
セックスのことだって、対等な恋人としては自分から『今夜どう?』くらいに言えるようにならねば。
そうとも、自分はここから変わる。
さりげなく、何でもない風に、大人らしい誘い文句を!
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