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「お前もたまには他の奴らと食べたらどうだ」
隣に立つ長身の天辺にちらりと目をやって言う。すると八木澤は目を瞬かせてから、しょぼんと口角を下げた。
「俺、邪魔ですか?」
「そうじゃなくて、歳の近い奴らで親交を深めたほうがいいんじゃないか」
「俺、課長と親交を深めたいですっ」
「そ、そうか」
横合いからぶつかりそうな勢いで身を乗り出され、トレーを手にやや体を引いた。
長テーブルの壁際の席に八木澤と向かい合って座り、いただきます、と手を合わせてから後は黙々と食事を始めた。
時々、総務部の連中の方から大きな笑い声が響いてくる。
しばらく黙って食事をしていて、ふと、目の端に映った正面の男の手が動いていないのに気が付いた。
「どうした」
八木澤はぼんやりしていた表情をはっと引き締めた。
「い、いえっ」
慌てたようにコロッケを口に詰め込み始める。
かつかつと飯を掻き込む様子を、彬は箸を手にしたまま不思議な気持ちで眺めていた。
そういえば今日の八木澤は随分静かな気がする。いつもランチ中は、はしゃいだ犬のように喋る奴なのに。
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