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「え? キクチ、文化祭に出るのか? 」 キクチのその言葉を受けた途端、夢で見た武道館のステージが、一瞬、フラッシュバックしたように脳裏に蘇ってきた。あのメロディーだけは、どうしても思い出せないが、無音状態の中で大観衆が両腕を上げて、ステージのタケヤマの一挙一動に応えてくれる。まるで王様にでもなったかのような、あの魔法のステージ。 「出るとは決まってない。まず審査があってそれ次第だからな。だから、お前たちと一緒にやるって事は出来ないんだ。確か文化祭出たがってたよな? 」 タケヤマは無言で頷いた。 「俺はお前の歌唱力もギターの腕もそれなりに知っているつもりだけど、バレーコードを弾くのにまだ手こずってるようだと、歌いながら弾くのは苦しいと思うけどな。」 「……一応、誰かしらに声をかけるつもりではいる。」 何だか、キクチと話す度に気持ちが鬱蒼としてくるのは何故だろう。別に今もまだ、お互い喧嘩腰になっている訳でもないし、歪みあっている訳でもない。 ただ、タケヤマからすると、友達と話しているという感覚が余り感じられなくて、どこか一枚壁を隔てて話しているような気がしていた。 確かに、会話をするようになったことはなったけれど、何でも話せる友人というカテゴリに当てはまるかと言えばそうではない。 それは、ヒロセとカネコだって同じことだけど、少なからず彼らは同じ目線で話が出来ている気がする。 「そうか。今からだと練習を相当しないとしんどいと思うぞ。体育館でパフォーマンスできるのも限られてるし、あまりに酷いのはやっぱ出せないだろうから。」 キクチは、よっぽど自信があるものと見えて大したことはないことのようにサラッと話した。 「何にせよ、お前らが出演するつもりならライバルになるな、楽しみにしてるよ。」 そう最後に言い残し、キクチは先に秘密基地の階段を降りていこうとした。 タケヤマは、まだ色々と整理のつかない精神状態にいながらも、半ば無意識に近い感覚でキクチを呼び止めた。そして、赤い夕日がライブで個人に当てられる、ピンスポットライトのように差し込んでくる踊り場で、キクチに尋ねた。 「キクチもさ、武道館でこういう風にピンスポットが当たるような、そういうヤバいバンドをやろうと思ってるんだろ? 」
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