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キクチは振り返ることなく、一言だけ言った。
「これのどこが、武道館のピンスポなんだよ。」
「……タケヤマ、お前、もう少しどうにかならんか。」
学校が終わってから、音楽室の練習室を借りて、バンド練習をしている時に、カネコが眉間に皺を寄せながら話しかけてきた。
「どうにかって、なにが? 」
「オーマイガー。解ってらっしゃらない! 唄に決まってるだろ、唄に。やっぱり弾きながらになると、だいぶ疎かになってるぜ? 」
「それを言うなら、お前もちょくちょくテンポ早くなったり遅くなったりするの何とかしろよ!」
「まぁまぁまぁ、そんなことでケンカしてどうすんの? お互いがお互いに、アドバイスだと思って受け止めなきゃ。」
こんな時もヒロセだけが、唯一、中立国家のスイスのような役割でいてくれているのが、このバンドの救いである。
タケヤマ達はギター候補を探しつつ、それぞれが持ち寄ったやってみたい曲の中から話し合いを重ねるに重ね、なんとかなりそうな手始めの2曲を決めて練習に明け暮れていた。
ギター候補はいそうでいていない。と、言うのが現状だった。大体が、もうバンドを組んでいてしまったり、余りにも趣味が違いすぎたり、見つかったと思ったら、やっぱりやらないと言い出したり、気が付けばあっという間に文化祭までの期日が差し迫ろうとしてきていた。
審査が2ヶ月前から行われるということなので、それまでにはメンバーを揃え、それなりの演奏を出来るようにならなくてはいけない。
その間にも、練習室ではキクチと顔を合わせる度に、自分達は何も成長していないんじゃないかと思わせられるような演奏を目の当たりにされる。
タケヤマは特に、キクチとは、段々と会話を交わすことも少なくなってきた。それはやはり、変に彼と話すことで、何かしらの影響を受けてしまいそうで怖かったからだと思っていた。
タケヤマバンドはなりふり構わず、顧問の担任に細かい指導を仰ぎながら、スキルアップに励むことに務めた。
しかし、軽音楽部の中では、もう当たれるだけの人数に誘いの声はかけてしまった。本当にこうなったら、必死で練習して3人でライブに挑むしかないんじゃないか……と、3人で肩を落としながら帰路へ向かう最中に、カネコがぽつりと口を開いた。
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