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放課後、大抵の学生は何処かへ遊びに繰り出すのが常套だが、タケヤマは何とか説得した三人を連れて、屋上前の階段の踊り場を秘密基地のようにして集まった。そして、自分の鞄から一冊のノートを地面に拡げて開いた。そのページにはでかでかと、【THE BEAT LOOSE。文化祭への道!!】と、書きなぐられてあるのが四人の瞳の中に映った。 「……。」 そのページが持つエネルギッシュさとは裏腹に、長い沈黙が続き、遠くで誰かが歩いている上履きの地面を鳴らす音さえ鮮明に聞こえてくる。そんな静けさだけが、THE BEAT LOOSEの結成を祝福していた。 「……なにこれ。」 強制的に集められたメンバーの中の一人、主にハードロックが好きで、中1からバンド経験者であるクールな男、キクチが冷めた顔つきで感情もなく、そう言った。 「なになに、マンガでも書いたの? 」 とっておきの獲物を狙って、竿を海に放ったものの、長靴が返ってくるようなお門違いの発言をしたのは、ゲームセンターでドラムマニアというドラムの疑似体験みたいなゲームが、身近で1番上手に出来ることでドラムを簡単に出来ると思い込んでいる、お調子者のカネコだった。 「タケヤマ、もしかして俺らでバンドやろうって事なのかな?」 そして、1番最後にようやく俺……。こと、タケヤマの意図していることを汲み取ってくれたのは、タケヤマと同じタイミングでベースを始めた、この中では比較的、大人しいというか控えめ。だけど音楽が好きで静かに燃えるタイプのヒロセだ。 「そう! ヒロセくん正解。今日から俺たちでバンドを結成して文化祭でライブをやろう! 」 タケヤマは満面の笑みでガッツポーズを作ると、3人の前に力強く立ち上がった。そして、反応を待つことなく、具体的な説明を始めた。 「バンド名は決まっててさ、その名も、ザ・ビートルーズ。担当楽器はもう分かっていると思うけど、俺がギターボーカル、キクチがギター、ヒロセがベース、カネコはドラムね。それで……。」 「断る。」 先生が生徒に指示を出すように、順に指差しながらタケヤマが説明をして回る最中に、キクチの冷淡な声が、鋭くタケヤマを制止した。 「え? 」 鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、キクチを見つめているタケヤマに向かって、追い打ちをかけるように、今度はカネコが口を開いた。
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