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「ここはヒロセに任せる。」 ゲームセンター前に座り込むタケヤマとヒロセに向かって、明るい笑顔でもってカネコが店内に入っていった。 タケヤマは、キクチに言われたことを引きずって項垂れていた。2人が気を使ったのか、ゲームセンターへ繰り出したのだが、一向にそんな気分になれず、心配するヒロセを他所に、悲しみに暮れてばかりいた。怒りは明後日の方へ飛んでいったものの、今度は、悲しみが土足で踏み込んできてしまった。 タケヤマがさっき、クシャクシャに丸めたノートは、あの後、ヒロセが拾ってきて汚れをしきりに落とし始めた。そのことにも八つ当たりしてしまったことを酷く悔やんでもいた。 「そんなに落ち込まないでさ、元気出しなよ? キクチはやっぱり色んなやつに誘われてたみたいだし。」 「そうだけど……あんな言い方ってないだろ。 」 タケヤマは優しいトーンで慰めるヒロセを見ることなく地面に向かって拙い声を出した。 「それに、いきなりバンドやろうたって、彼が言うように都合もあるじゃん? 僕とカネコは良しとしてもさ。」 ヒロセは尚も諭すような眼差しと口調でタケヤマのことを慰める。そんなことはタケヤマも重々、承知しているつもりだった。 キクチは、やはりキャリアが皆より早いこともあって、先輩がやっているバンドの手伝いをしたり、多方面へサポートに出たりと、多忙なことをヒロセは聞きつけたらしい。しかし、だからこそ余計に参加して欲しかった。経験のあるキクチに頼りたかったのかもしれない。 「ヒロセは……ヒロセはバンドやってくれるんだろ? 」 もはや哀願めいた顔と口調で、そう投げかける。 「……そうだね、とりあえずバンド名は変えた方がいいかなとは思うけど。 」 ヒロセは太陽のように眩しい笑顔で笑いかけるも、タケヤマはまだ枯れた花のような顔をした。 「そもそも、なんであんなバンド名なの? 皆が言うように、あれじゃ流石に既存感を持たれて当然と思うけど……。」 そんなタケヤマを見ても、決してイライラすることもなく、複雑に絡み合ったロープを一つ一つ丁寧に解いていくように、ヒロセは接し続けてくれた。 人に協力を仰ぐのなら、全容をきちんと説明しなければいけないのは解っている。けれど、その熱量を、いざ話すとなると、こんなにも自信がなくなり、自分の考えが稚拙に思えてくることに、タケヤマは葛藤した。
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