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「なんだよ、これ。クソゲーだな。あんなのドラムじゃないよ。」 明るく店内に消えたはずのカネコが、すっかり口を尖らせて不機嫌に外へ出てきた。おそらく得意のゲームで手痛い結果を食らったのだろう。 「あ、カネコ。今さ、タケヤマにバンド名のことについて聞いてるんだけど……。」 ヒロセが出てきたばかりのカネコを慮ってか、さっきまでの状況を説明し始めた。 「ああ、あのダッさいバンド名か、ちなみにどういった経緯なんでしょうか? 」 カネコは決して悪気はないのだろうが、テレビのリポーターの真似をして、マイクを持つような仕草を顔に近付けてくる。 タケヤマは苛立ちを抑えるように、深呼吸を1度してから口を開いた。 「……いやさ、元々ビートルズが音楽好きになったキッカケだからってのと、Bから始まるバンドに好きなのが多くて。で、何とか、その二つを使えないかなって、ずっと考えてて、思いついたのがこれだった。」 「何とも、安易な決め方だなぁ。」 カネコが苦笑いを浮かべて、外人のように気さくな口笛を鳴らした。どこまでもストレートな男だ。 「その他に何か候補はなかったの?」 ヒロセが、最早インテリな弁護士や検察のように、無駄な事は言わず、要点に狙いを定めようとする。 「あったら、きっと書いてくるでしょ。すっかり舞い上がっちゃったんだろ? わっかりやすいからなぁ。」 カネコが、また軽口混じりに口を挟む。それもまた明らかな図星だった。 「てかさ、カネコはずっとついてきてるけど、一緒にバンドやろうと思ってるの? 」 ヒロセ弁護士が、出ていそうで出ていなかった確信に迫る。 「ん~、俺は本当のドラムは全然上手くないから、キクチはまず一緒にやりたがらないだろうなと思ったけど、お前らは似たようなもんじゃん? それに付け加えて、元からの知り合いで気兼ねもないからな。とりあえず、やるなら難しいこと考えずに、人の曲でもいいから、やりたいものやってけばいいんじゃないの? 楽しみたくてやるんだろ? 」 タケヤマの心の中に深く根を張っていた、キクチに言われた言葉の数々が、カネコの一言で少しずつ引っこ抜けていきそうなくらい、タケヤマは嬉しくて、思わず涙ぐみそうになるのを何とか誤魔化そうとした。 軍隊じゃなくても、味方がいてくれることの喜びが、こんなにも気持ちが暖かくなることに幸福を感じたのだった。
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