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「なんだ、なんだ? 思わずウルッときちゃったか? 」 この男、普段はおちゃらけているくせに、こういう事には敏感に気付きやがる……。 それでも、タケヤマはそんなカネコのフランクな対応が本当に嬉しくて、俯いたまま、バカヤローとだけ零れるようなボリュームで呟いた。 「まあ、だからさ、文化祭云々はともかく、とりあえずバンドやるならやることにしようや? キクチが駄目なら誰か他のヤツに当たらないとだろ? 」 「そ、そうだな。なんか勇み足かもだったかもしれないのは認めるよ。バンド名とかも皆で考えなおすとして、とりあえずやってみたい曲を用意しようぜ! 」 カネコの言葉を受けて、タケヤマはやっと活気を取り戻したような気持ちになれた。それを見ていたヒロセも親が子供を見守るような暖かい視線を向けながらも、口を開いた。 「キクチにも、一応もう一度話したら? やる、やらないもそうだけど、ケンカ別れみたいになっちゃうのも嫌じゃん。」 そうだ。心のどこかで気になっていた、その問題にも改めて対峙しなければならない。元を辿れば、自分の身勝手から出た錆なのだから。 彼の加入は脇に置いておくほうが先決。と、タケヤマも決意しようと決めた。 「タケヤマの歌いながらのギターは重要課題として、俺らも本格的に練習しないとだな。」 いつの間にかリーダーのようなそぶりを見せたのはカネコだった。意外と殊勝なことをやたらと言うのは、わりかし不思議な光景でもある。 ともかく、難航しながらも、ビートルーズ改め、名前のない3人のバンドは晴れてスタートラインに立った? のだった。 それからゲームセンターを後にして、それぞれの帰路につきながらも、見えない未来への話題は尽きることがなかった。 きっと、タケヤマが求めていたことの大きな部分は、これだったんだろうな。と、思う。 自分が、こいつらだと思うメンバーで一つのものに熱中する。ただ、それは部活とか、恋愛とか、将来の仕事とか、きっと、色んな面において同じことが言えるのだと思う。何千とあるパズルのピースを1個ずつ当てはめていって、ガッチリ当てはまるものが、タケヤマには音楽だったということだろう。こう言うと語弊があるかもしれないけど、きっとそういうものなんだろうと思っている。
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