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「そろそろ、何か言いに来るんじゃないかと思ったよ。」 そう言いながら、キクチは例の秘密基地に腰を下ろした。 タケヤマは学校でキクチを見つけるや否や、この前のことで話があるとキクチを呼び出したのだった。 「謝ってくると思ってたのか? 」 メンタリストに予め用意されていた答えへ導かれて驚いている被験者のように、タケヤマは目を丸くして詰め寄った。 キクチは少し面倒くさそうな顔をしながら、ヒロセとカネコに何だかんだ言われるだろうから、それで暴走も止まるだろうな。と、思っただけだよ。で、話って? と、淡々に本題に入ろうとした。 タケヤマも変に間を作って、タイミングを見計らうよりも、その方がありがたかったので、そこは躊躇することなく気持ちの切り替えが出来た。 「もう、察しはついてるかもしれないけど、その、バンドに勝手に誘った件というか……キクチのことも考えず、ギターやってくれなんて言ってごめんな。キクチは色んなやつと交流があるってことも聞いたし、今更シロートの俺らとは出来ないよな。」 タケヤマは両手を組んで、申し訳なさそうに話しだした。 キクチも腕を組んで、タケヤマを凝視しながらも、ただ黙って耳を傾けていた。 タケヤマは、キクチが何か言うものと思って、彼の動向を見守っていたが、キクチは、まだ腕を組んだままの姿勢を崩そうとはしない。また秘密基地に静寂だけが残って、遠くの方から、廊下を走る上履きの音と、それを注意する先生の声が吸い込まれるように聞こえてきた。 タケヤマはもどかしくなって、組んだ両手を何度も組み直したりして、時間の経過にひたすら耐えていた。こういう時の静寂は、やたらと長い校長先生の話が終わるのを待っている時とは比較にならないほど辛いものがあった。 「……それだけ? 」 キクチがようやく、その静寂をそっと破った。けれど、その返答の短さに呆気にとられて、タケヤマが返事をするのを忘れそうになりそうだった。 「うん、まぁ……それだけだけど……。こういったことで決裂して話さなくなるのも嫌だな。って思って。」 タケヤマは自分の素直な気持ちを、素直にキクチに伝えた。むしろ、これ以外に説明のしようがなかった。 「そうか、偉そうかもしれないけど解ってくれたならいいよ。お前が言うように、今、俺は文化祭の審査へ向けての練習に追われててさ。」
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