ターゲット

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       その日の夜キラは中州にある小さなカフェに向っていた。 店は入り口で花屋を営み奥が喫茶になっている。 客が誕生日だと言うとよくこの店で待ち合わせて花を贈った。 今日の目的は岩村純子だ。 中州のクラブで『真美』と名乗っている。 今日は此処で同伴相手を待っているはずだ。 だがその客にはキラが手を廻して来られないようにしていた。 ぎりぎりまで待たしてからキャンセルの電話を入れるように言ってある。 今頃はイライラしながら客を待っているはずだ。 事前の調べによると彼女は大口の客に逃げられ店に多額の未納金を抱えていた。 客が遅くても必ず待っているはずだ。 午後八時少しまえに喫茶室に入って純子の直ぐ隣りの席に座った。 コーヒーを頼み雑誌を捲りながら様子を見る。 客からのキャンセル電話がはいった。 「えー来られないって今まで待たせて? 八時までにお店に入らないと遅刻になっちゃうのよ。 どうしても来られないの?」 純子は顔を顰めて客を詰っていた。 電話を切るのを見定めてからキラが声をかける。 「あれ、真美ちゃん・・だっけ?」 純子は見慣れないキラに少し警戒しながらも親しげに話し掛けた事で興味を示した。 「どうしたの? あー同伴客にキャンセル? 大丈夫? 良かったら僕が行こうか?」 「いいの? 誰かと待ち合わせなんじゃ。 でも来てくれたら嬉しいけど・・」 キラは優しそうに純子を見てからケイに電話を入れた。 「あ、僕、ごめん急に用ができて先に帰るね。 怒るなよ、埋め合わせはするよ何がいい? 香水? いいよ、明日一緒に買いに行こう。 ああ分ったバッグもだろ? 分かったよ。 何でも君が欲しいと言う物はみんな買うよ」 そう言って切ってから純子に笑顔を見せた。 ケイはその電話でキラが獲物を追い始めたと笑いながら幸乃に伝えた。 「ごめんね。 行こうか?」 キラは純子の分も伝票を掴むとレジへ向った。 わざと純子が傍に来た処で財布を開けた。 百枚近く入れておいた一万円札から一枚抜くとレジの女性に渡してつり銭は無造作にポケットに入れた。 金が有ると分ると純子の態度が変った。 いきなり腕を組んでキラを見つめた。 「そうだ、僕君の店には友達と行っただけだからボトルは無いけど、ニ、三十も有ったら足りる? 実はさっき彼女に香水を買う約束をしちゃって・・」
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