終演の足音

4/9
前へ
/109ページ
次へ
彼は私を車の後部座席に乗せた。 中には私の他に二人の女性が先に乗っていた。 一人は東京で見たあの女性だった。 後の一人は見た事がないが、見るからに水商売の女性のようだった。 急に不安になった。 でも逃げられない・・ 車は高速を通り神戸方面に向かった。 山道を走る。 「どこまで行くの?」 そう聞く。 「六甲山・・ 誰にも聞かれず話ができる」 そう答える。 車は街中を過ぎ山道に入る。 トンネルを過ぎて直ぐに橋が見えた。 橋を越えるとテニスコートと民家が見える。 (良かった、思ったより山の中じゃない) そう思っていると車が停まる。 (逃げるなら今しかない)そう思った時だ。 先に車を降りたのは助手席に乗っていた東京で見た女性だった。 直ぐに彼が後を追う。 その隙に車を降りた。 二人とは反対の方向に逃げる。 雨が振りだして何度か転びかけながら住宅街を走った。 だんだん周りが薄暗くなる。 気が付くと前方に橋が見えた。 入り組んだ住宅街を逃げるうちに元の所に戻って来てしまったらしい。 慌てて方角を変えてまた逃げる。 雨で身体が濡れ寒い。 暗くなった道をひたすら歩いた。 気付くと直ぐ前に崖か見える。 雨で滑り落ちそうになって立ち止まった。 もう辺りも暗い。 どうしようと思った時急に肩を捕まれた。 「助けて・・」 振り返ると助手席に乗っていた女性が頭から血を出して私に覆いかぶさる。 恐ろしくなって彼女を振り払った。 その瞬間彼女はニ、三度よろけ崖の下に落ちていった。 彼女の掴んだ跡は血がべっとりと付いた。 我に返って崖下を覗いたが暗くて何も見えない。 気にはなったが恐ろしさの方が勝ってその場から逃げた。 どこをどう歩いたのかは分からない、 大きな道に出るとタクシーが見えた。 手を挙げそのタクシーに乗って近くの駅で降りた。 震えながら大阪に逃げ帰った。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加