終演の足音

8/9
前へ
/109ページ
次へ
マリアは起き上がってキラに抱きついた。 「違うの、私・・ 貴方を独り占めに出来ない事が悲しくて、貴方の周りの女の人達にいつも焼きもちを焼いてる自分が惨めで」 キラは驚いてマリアを見つめた。 この娘の心は見えていたつもりでいた。 でも違った・・ ケイが言っていた言葉を思い出した。 (人間は一分間に色々な事を考える・・) そうなんだ・・僕が見ていたのはこの娘の中のほんの一部分だったんだな・・ マリアはキラの頬に手を当てた。 「でも後悔してる、会えなくなっても結局貴方しか愛せなかったし、貴方だけを愛してた。 私の唄うラブソングはいつも貴方に向けて唄ってた」 急にマリアが可愛らしく思えた。 そして母を思った。 あの人も父を愛したが故のやきもちや憎悪を持て余し、自分を責めていたのかも知れない。 「キラ・・」 マリアの顔が近づいた。 「ダメ」 「どうして?」 「抱きたくなる」 「いい・・」 「いやダメだ、ここで君を抱いたらケイに全て知られる」 「え?ケイ君?」 キラは悪戯っ子のように笑いながらマリアを覗いた。 「あいつ、生きてる人間や起きてる人間の心の中は分からないが、寝てる人や誰かが触った物に残った思念が解るんだ。 もしここで君を抱いたら、キスの数だって君に触れた順番だって全てあいつに解ってしまう、それでも構わない?」 マリアは驚いてキラを見た。 「ケイ君って凄い人だったのね・・」 「おい、そこか? 感心する所」 「え? だっていつも黙って私の話を聞いてくれたし、私が貴方の事を聞いた時もそれとなく気遣ってくれたわ。 だからそんな力が有るなんて思わなかった」
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加