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「『赤蓑』の仕業じゃ」
目の前に目が血走った老婆の顔が迫り、松田武蔵は啜っていた蕎麦を喉に詰まらせた。
東海地方の某山中を走るハイウェイ。その休憩所にある一軒のひなびた食堂で武蔵は遅い昼食をとっていた。店内に設置してあるテレビでは、この食堂の近くのキャンプ場で男女二人が殺害されたニュースが流れている。それを何気なく見ていると、この店の老婆が話しかけてきたのだ。
「赤蓑ってなんですか?」
咳き込みながらも武蔵は律儀に聞き返した。
「赤蓑はこの辺りの山に住まう、山のモンだよ」
割烹着姿の老婆は、武蔵が話しに乗ってきてくれたのが嬉しかったのか、口角を上げて皺だらけの顔をさらに皺くちゃにする。
「江戸から明治に変わる頃、この近くの村である女が子供を産んだ」
老婆は頼まれもしないのに語り出した。
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