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車内放置
久しぶりにパチンコに行った。
結果は出たり入ったりのとんとん。儲からなかったけれど遊べたから充分か、そんなもの。
多分店内には三時間くらいいたと思う。
駐車場の自分の車の所へ向かうと、来た時は気づかなかったけれど、俺が来るより前から停められている隣の車の、後部座席に赤ん坊が寝かされていることに気づいた。
エンジン音がしないからクーラーはかかっていない。窓は閉め切りで空気抜きなどされていない。
今日は曇りだけれど、それでも真夏の屋外はかなり暑い。ましてや閉め切られた車中の温度はどうなっていることか。
ただ眠っているだけなのか、それとも、想像するのも恐ろしいことになっているのか、赤ん坊はぴくりとも動かない。その状態に肝が冷えて、俺は慌てて店内に駆け込んだ。
スマホで撮った車のナンバーを店員に見せ、店内にいるだろう保護者に呼び出しをかけてもらう。
すると、程なく一人の女が現れた。
歳は三十前くらいだろうか。化粧が濃い。髪形も服装も派手で、失礼だけれど水商売の女という印象だった。
そいつが、さも不機嫌そうに店員に詰め寄る。店員が、俺と赤ん坊のことを話すと、女はいっそう不機嫌な態度になって俺を睨んできた。
「アンタ、いったい何の嫌がらせ?」
「嫌がらせ?」
「車の中に赤んぼがいるって、アタシを呼び出させたの、アンタなんだってね。何が目的でそんな嘘ついてるワケ?」
いきなりそう非難され、俺はひたすら面食らった。
嫌がらせも何も、俺は見たことを正直に話しているだけだ。こんなことを言われる理由が判らない。
いいやそもそも、今はのんきにこんなことを言ってる場合じゃないだろう。
「それは、子供の車内放置がバレてマズいって気持ちを隠すための態度ですか? そういうのどうでもいいから、早く車に戻って下さい。責めてるとかそういうことじゃなくて、あのままだと、赤ちゃん本当にヤバいですから!」
女の態度に腹は立つけれど、優先すべきは子供の命だ。ここでぎゃあぎゃあやっている間にも、あの赤ん坊はクソ暑いだろう車内に放置され続けているのだ。
俺が見つけた時には、すでに動いている様子がなかった。でも、手遅れにはなっていないと信じている。だから一刻も早くあの車内から出してやらないと。
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