miserable wednesday

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 デルトラは席の間をゆっくり歩きまわりながら、口元に悪趣味な笑みをたたえていた。 「ゲッツァバーグ。そこはどんな場所かしら。アンドリュー、答えて」 「魔法を持たない無魂の世界にありながら、魔法の力を持つ人々が暮らす街です」  デルトラに突然指された生徒は慣れた口調で答えた。 「正解よ、アンドリュー。みんなも知っているように世界は二つに分かれているの。一つは私たちの住む、魔法の世界。そしてもう一つは、私達とはちがい、魔法を持っていない人々が暮らす無魂の世界。二つは今から二千年前に条約が結ばれ、今は行き来をすることも不可能だけど、無魂の世界には一部、様々な歴史的理由から魔法使いが暮らす場所が存在しているわ。それがゲッツァバーグ」  では、とデルトラがふたたびクラス中を見回した。 「ここにいるアスターはゲッツァバーグ移民ね。あなたは一年半前、ここ自由と平等の国グウェンドリンに亡命してきたわ。なぜアスターが亡命しなければならなかったのか、わかる人は?」  しかし手を挙げる生徒はおらず、デルトラは深いため息をついた。 「指さないと誰も発言しないのね。積極性がなくって嫌になっちゃう。じゃあ、レア、答えて」 「……内乱が、起こったからだと思います」 「そうね。ゲッツァバーグに住む魔法使いと無魂の人々とが争い、そして負けた魔法使いたちはかの地を追われた」  デルトラは怯えるようなまなざしで答えた生徒を座らせると、これこそが最大の悲劇であるとでも言うように、眉を大げさに歪ませた。 「魔法使いたちが負けたのよ。無魂の、魔法も持たない者たちに」  アスターはそんな教師をぼんやりと眺めていた。  彼女の論調はいつも同じだ。ゲッツァバーグの魔法使いたちはなんと弱く、同じ種族であろうとも軽蔑にあたいする、恥ずべき人々であるか。それをいかに回りくどく、理想論と綺麗事で固めた言葉で朗々と語るかに並々ならぬ情熱を燃やしていた。アスターは毎回その演説をなぜかひとり立ったまま聞かされるのだ。毎回質問があると言って立たされるが、実際に質問されたことは一度もなかった。
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