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「あの屈辱的な時間は、最近はもっぱら祈りをささげる時間にしてる」
授業が終わり、次の教室へ移動しようとしている途中、ジムがわざわざ追いかけてきて言った。
「同じ人間として恥ずかしいよ、デルトラの行為は。だから、君の故郷に早く平和がもたらされますようにって祈ることにしてるんだ」
「早くあんな馬鹿げた人間が地獄へ落ちますようにって? いや、ジョークだけど」
「アスターが言うと冗談に聞こえないよ!」
ジムはなぜかデルトラに対して猛然と怒っていた。むしろ、当事者なのに平然としているアスターにも苛立っているように見えた。
「陰険で想像力に乏しい人間はどこにでもいるさ。いちいち腹を立てていたらきりがないくらいにね。でも代わりに怒ってくれているジムの優しさには感謝してるよ」
「そうかい?」
「ああ。だけど祈りは必要ないよ」
「なぜ?」
きょとんとするジムに、アスターは柔和な笑みで返した。
「神さまなんて、いないからさ」
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