miserable wednesday

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 ちょうど読んでいた教科書の文字が陰で隠され、アスターは顔をあげた。  水曜日最後の授業である実践呪文学の授業が終わり、ノートを見返していると、気づけば教室に残っているのは自分一人だった。そんなアスターに、担当のマリアチュール教授は「本当に熱心ねえ」と感心したようにため息をもらした。 「すみません、すぐ出るので」 「別に急がなくてもいいのよ。まだ次の先生も来てらっしゃらないし」  「あなたみたいな努力家な生徒は最近じゃほとんどいないわ」とオーバーリップに塗られた真っ赤な口紅を光らせ、教授は手をヒラヒラとふった。 「あなたのこと、偏見で悪くいう人もいるだろうけど、そんな人の言うことを気にしてはだめよ」 「ありがとうございます」  アスターははにかんでみせたが、実際は教授の服装について考えているだけだった。いつものつるつるした素材のショッキングピンクのスーツに、今日は大粒の白いパールのネックレスをつけている。本人はオシャレのつもりかもしれないが、そのパールは肥大化した体をより膨張させる役割を遺憾なく発揮していた。  とそこへ、アスターの指導教官であるフィザーリが廊下からにょっきりと顔を出した。 「マリアチュール教授、ちょっとアスターをお借りしてもよろしいですかね?」 「ええ、どうぞ。ちょうど今終わったところですから」  それじゃ、とフィザーリに軽く会釈をしてマリアチュールが大きなお尻を揺らしながら立ち去った。見送るフィザーリが「御馳走にされるアヒルみたいだな」と小さくつぶやくのをアスターは聞き逃さなかった。 「先生、何か僕に用でしょうか」 「そうだった! そうだった!」  フィザーリは思い出したようにアスターの前に回ると、大きな眼鏡のレンズを指でぐいとあげ、 「おめでとう、学費全額免除の奨学金申請が通ったよ!」  と、実に誇らしそうな口調で言った。 「初めは魔法の存在すら知らなかった君が、この学園に来てわずか一年半で、これほど成長するとは誰が予想しただろう。君はよくやった。慣れない環境にもかかわらず、よく勉強し、今では周りのどの生徒より優秀だ。私は鼻が高いよ」 「とんでもありません、すべて先生のご指導のおかげです」  アスターが首をふると、フェザーリは満足そうに頷いた。
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