door in the 5th theater

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 このビルはエンターテイメント街のはずれにある。ビルのある一角は、人通りの少ない裏路地で、行政も黙認する、誰かが勝手に作った建物が無秩序に乱立しているような場所だった。自称芸術家によって作られ放置されたた巨大テディベアや、建築法をまるで無視した今にも倒れてきそうな超高層ビル、古代の城を忠実に再現した馬鹿でかいお化け屋敷など、町に住む住人のほとんどが寄り付かないような場所だ。もちろん生徒の立ち入りは禁止されているが、学園の非公式クラブの多くがこっそりここに部室を構えていることは公然の秘密だ。  アスター達がいるこのビルも、そんな無秩序な街角にひっそりと佇む管理者のいない空きビルだ。  もとはスクリーンが十三もある大きなシネコンだったようだが、何年か前に閉鎖され、廃墟と化した今では、かつて大勢の観客でにぎわっただろう面影はほぼない。シネコンはスクリーンごとに別の若者グループのたまり場となっており、アスターとレプトスもその7番スクリーンを占拠し、「ラボ」と呼んで勝手に使っていた。  レプトス・ペルマムはこの学園唯一の同郷出身者だった。レプトスはアスターよりはるかに不道徳的で思慮に欠ける男だったが、同時にアスターにとってかけがえのない友人でもあった。レプトスにとってもそれは同じで、二人は夜中になるとこっそり自分の寮を抜け出し、決まってこのラボの屋上に集まり、朝まで話をするのが常だった。人々の雑踏とにぎやかなBGMであふれている大通りとは対照的に、さびれた裏通りの夜はひっそりとしていて、まるで生き物なんて何もいないかのようだった。
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