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「なあ、スペルマム」
「なんだ?」
「俺たちはここに、逃げてきた訳じゃないよな」
「どうしたんだよ、タイム。そんな、急に」
すべて自分の頭で考え、選び取ってきたはずなのに。
たまに不安になるのだ。自分のしていることは、本当に正しいことなのかと。
そんなアスターの心を感じ取ったのか、レプトスも隣に同じように横になり、空を見上げた。
「アザレアは元気でやってるかなあ」
アザレアとはアスターの妹の名前だった。変わり者のアスターとはちがい、いつも笑顔で、工場のみんなと仲がいい、アスターの自慢の妹だった。
「やってるよ、きっと」
混乱の中で離ればなれになってしまった妹は、どこにいるのかわからなかった。今もまだゲッツァバーグにいるのか、他国にいるのか。少なくとも、グウェンドリンで難民申請をした者のリストの中には名前がなかった。そもそも、生きているのかもわからない。
でも、アスターもレプトスもそのことは決して口に出さなかった。口に出したら、本当になってしまいそうで怖かったからだ。
「会いたいなあ」
レプトスはしみじみとつぶやいた。
「ああ。会いたいよ」
アスターも心の底から湧きあがる気持ちを吐露するようにつぶやいた。
「タイム、覚えてるか? ゲッツもこんな風に星がよく見えたよな。真冬の寒い日は、オーロラなんかも見えた」
「覚えてるよ。仕事の帰り道はいつも真っ暗だったからな。道には電燈もないし、星ぐらいしか明かりがなかった」
「この空はたぶん、ゲッツと繋がってるんだ。きっと今日も誰かが、この星を頼りに道を歩いてる」
アスターにはレプトスの言いたいことがよくわかった。
「そうだな。俺たちは闇夜を照らす星を作ってるんだ。一つでも多くの、人々の行く末を案内する道標を」
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