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「どーーーーでもいいって顔、してましたね」
「へ?」
ニシンの塩漬けを切り分けていたデンの言葉に、アスターは思わず目をしばたたかせた。
「俺が? いつ?」
「さっきですよ。勉強会の間中ずーっと」
「そんなことない。単に頭を使ってると、表情にまで気がいかないだけだ」
本当は図星だったが、アスターはそれは顔には出さず答えた。正直、新たに注目されている魔法エネルギーの国家間の取り扱いの違いについてなんて、何の興味もなかったし、そんな一学生が話し合ったところでどうにもならない議題に時間を割いていることも馬鹿馬鹿しかった。真剣に議論するふりをして、考えていたのは5番シアターのことだったが、まさか見破られていたなんて。
「つまり先輩の地顔は、気の抜けたアホ面ってこと?」
「言ったな、デンドロビウム」
「はいはい、痴話げんかはおしまい」
クスクスと笑いながら仲裁をしたのは、七年生のローズマリーだった。
「これは痴話げんかなんかじゃありません」
「そう? あなたはそうは思ってないかもしれないけれど、傍から見てる私たちは全員そう思っているわ」
デンの反論をローズマリーはぴしゃりとやり込めた。そして真顔で、
「だって今の話は、デンが勉強会中ずっとアスターのことを見てたって話ですものね?」
とつけ加えられ、デンは茹でたタコよりも顔を赤くし、食事のテーブルはますます笑いに包まれることになった。助けを求めようと向かいに座るレプトスに目で訴えるも、ニヤニヤしながら肩をすくめてみせただけだった。どうやらアスターに味方はいないらしい。
「ここの魚料理、とっても美味しいね」
仕方なく、アスターはちがう話題をふった。
「今日の幹事はタキユリだっけ?」
ああ、とそっけなく返したのは、テーブルの一番奥に座り、話の輪には加わらずに静かに黙々と料理を食べていた、黒いセーターの青年だった。チウラ・タキユリの態度は失礼にも思えるくらいそっけないものだが、これがこの男の精一杯の愛想であるということを最近知った。やや長い前髪から物憂げな藍色の瞳がのぞく。
勉強会の後の食事会の幹事は、一人ずつメンバーが持ち回りで行うことになっていた。今日の担当はタキユリだ。
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