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「第一寮生の行きつけの店なんだ。と言っても、来たのは今日が初めてだけど」
アスターはこの寡黙で理知的な青年に、少なからず好感を抱いていた。彼はノルニル会の会員の中でもとびぬけて優秀な学生の一人で、アスターも一目置いていた。それに自分と同じように人と積極的にまじわることをしない彼の脳内には、その物静かな風貌とは裏腹に、広大な宇宙が広がっているんじゃないかとも思っていた。
ふとレプトスの話を思い出したが、それはにわかには信じられなかった。こんな常にうるさくて、脊髄で行動するような山ザル女のことを、その孤高さから学園の男子学生に絶大な支持されている彼が好きであるはずがない。
「ところで、デン」
そう結論付けたとき、タキユリがデンに話しかけた。
「ペンドラゴンクラブの生徒が、また新たにミンターへの通路を発見したって聞いたんだけど、本当?」
「本当ですよ」
タキユリの質問に、デンは得意げにニヤリと一笑した。
「うちの探検家チームは優秀ですから。何度教授に捕まろうが、決して諦めないんです。最近は老朽化なのか、シールドに小さな穴が開いてることがあって、その穴からミンターへ上手くつながってる場合があるんです」
「今わかってる抜け道が全部書かれた地図って、いくらで買える?」
「そうですねー……、今のところ販売ルートに乗せる気はないですし、門外不出の方向なんですが、チウラ先輩が個人的に使うのなら販売も可かなー。でも相当高いですよ。教授の見回りのタイムシフトもセットでだいたい」
「あの、そのような裏取引をこんな明るい公衆の面前で堂々とするのはどうかと……」
おずおずと手をあげたタキユリファンのストックの言葉に、テーブルにいた全員がふきだした。
「冗談だよー」
「そうだよ、ストック。僕は別に地図なんて欲しくないからね」
「えっ、そうだったんですか」
ほっとするストックを横目に、上級生のブランが叱るような目でデンとタキユリを見た。
「真顔でするからいけないんだ。それにお前らが言うと、全然冗談に聞こえない!」
会話はその後も実はタキユリがお調子者なのではないかというブランの話に進んでいったが、アスターは別のところにひっかかりを覚え、食事の間中、そのことに関してずっと思考していた。
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