sixth sense

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 キャマレイトの町は、歴史上「もっとも完璧な要塞都市」と言われている。なぜなら、キャマレイトは地図に載っていない場所だからだ。  町の入口は、グウェンドリンの首都ダールから鉄道で三時間の、ミンターという田舎の港町にある。市街中心部を流れるミヌー川に架かるミヌー橋が、キャマレイトへと通じる出入口だ。橋全体に強力な転送魔法がかけられており、橋を渡れば、そこはもうキャマレイトの、四方を森で囲まれた、赤い屋根の古い街並みが広がっている。  各地に王国が乱立する時代、いち早く市民だけの共和政の国家として建国したキャマレイト共和国は、この特殊な都市構造によって難攻不落の要塞国家として名を馳せた。共和国がほろんだ後も、都市自体の地理は代々キャマレイト自治政府長官にしか知らされてこなかった門外不出の秘密であり続けた。ゲートが一つであるという事は、町に出入りする人や物の管理が容易であるということだ。ここに目をつけたのがキャマレイト魔法学園である。創立当時はまだ貴族の子息しか入学を許されていなかったこの学園にとって、生徒たちの規律ある学園生活を安全に運営するにはぴったりの場所だったのだ。そして近代に入り、正式にキャマレイトがグウェンドリン国の一都市となった今でも、その所在は州知事と学園の教授陣しか知りえない情報だという。  日曜日、アスターは図書館に来ていた。学園の小さな図書室ではなく、キャマレイトの中央図書館である。閲覧室にひとけがないことをいいことに、大きな机を占領して参考になりそうな本を山と積んでいる。
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