sixth sense

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「なにか調べもの?」 「ちょっとね」  いつから横に立っていたのか、顔をあげるとニコラ・アームスヘッド教授が立っていた。今日はオフのためか、ゆったりとしたTシャツにロングカーディガン、動きやすそうな黒のスキニーパンツというラフな出で立ちだ。 「そっちは?」 「友達の結婚式でスピーチを頼まれたんだけど、思いつかなくて少々先人たちの知恵を拝借してみようと」  ニコラは手に持っていた無駄にカラフルで分厚い本を見せた。表紙にはピンクの文字で『結婚式スピーチ100選』という文字がでかでかと書かれている。 「自分の研究分野ではわからないことなんてないのに、こういうのは本当に駄目」 「スピーチなんて、思ったことを言えばいいだけじゃないの?」 「形式とか格式とか、いろいろあるみたい。あーあ」  ニコラはアスターの向かいの席に座りながら、顔を曇らせた。 「あなたに会うんだったら、もっとちゃんとした格好してくるんだった」 「そういうのもいいよ、新鮮で」 「でもちょっとカジュアルすぎる」 「そんなことないよ」 「そう? 手伝えそうなことがあったらいつでも言ってね。専門外のことでも、何か役に立つかも」 「ありがとう」  しばらく互いに無言で読書を続けていると、そういえば、とニコラが顔を上げた。
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