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「ペックバッカー教授に聞かれたわ。あなた、社会運動に興味があるの?」
「え?」
アスターは机のすみに置かれた『非暴力による民主主義革命』と書かれた本をさりげなく裏返しながら、「……ああ、まあね」と曖昧に返事をした。
「まあ、興味はあるよ。故郷であんなことが起きたし」
「いつか、故郷へ帰るの?」
「帰りたいとは思ってるよ」
そう、とニコラは短く返事をした。帰るのを止めてほしいと思っているのか、自分がついていくのだけはごめんだと考えているのか、彼女が何を考えているのかは不明だ。というか、女性が考えていることの大半はわからない。
「魔法使いは向こうの世界、あー、つまり無魂の人々の世界について、興味はないのかな」
アスターは読んでいた本を閉じて顔をあげた。ニコラは散らばった本の表紙を興味深げに見ている。
「ある人もない人もいると思うけど、行ける訳ではないし、多くの情報が入ってくる訳でもないから、あまり話題にはのぼらないわね。逆にゲッツァバーグの方が、同じ魔法使いが住んでいる場所だから、関心は高いんじゃないかしら」
「その割には薄い情報しか入ってこないけど……」
咄嗟についきつい言い方をしてしまったことに気づき、アスターは慌てて謝った。
「ごめん、責めてる訳じゃないんだ」
いいのよ、とニコラは丁寧に微笑んだ。これのどこが氷の鉄仮面なのか、と内心苦笑する。ニコラは二人のときはいつも笑顔だ。
「逆に無魂の世界の人たちは、魔法世界をどう思っているの?」
「たいていの人はおとぎ話だと思ってるよ。魔法なんてファンタジーだって」
「へえ」
ニコラからは気のない返事が返ってきた。そこから、どうやら彼女の関心は別のところにあるらしいことがうかがえる。
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