sixth sense

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「俺もっ、……でも、危険じゃないか……?」 「それはもっと詳しく調べてみなければわからない。そもそも道がどこに繋がっているかもまだ定かではないし」  これを、とアスターは鞄からファイルを取り出した。 「魔法世界と無魂世界の交流は禁止されてる。まず工業製品の持ち込み、持ち出し及び輸出入の禁止、もし違反した場合は魔法国際法に基づき、150年の禁固刑に処せられる。特別に許可された以外の故意による人の渡航も20年の禁固刑、公共の福祉のための合理的判断だとよ」 「見つかったら終わりってわけか」 「いや、これがそうでもない。法律にはいくらでも抜け道があるからな。それに今のとこ処罰された前例はないらしい」 「これだから頭のいい奴は……」 「それでこっちがここ二年間の新聞の写しだ」  感心半分呆れ半分という顔のレプトスに、アスターは数枚の紙を放った。 「どれもゲッツァバーグの記事だ」  図書館にあった世界中の新聞をあたってみたが、ゲッツァバーグが取り上げられていた記事はほんの少ししかなかった。無魂による魔法使いに対しての人権侵害を取り上げたものだが、現地に行って取材したものはその中でも片手で数えるくらいだ。唯一、ゲッツァバーグに潜入取材をした記者の手記の連載があったが、連載は三回目で突然打ち切りとなっていた。記事では依然として身分制度による独裁的支配は続いており、民主主義や魔法族自決を求める声が水面下では起こっていると記事は締めくくられている。 「……二年経ったのに、何も変わってないってことか」  記事を見ていたレプトスが、ポツリと言った。 「早く、一刻も早く帰りたいよ」 「ああ」  目をつぶれば、まぶたの下にたちまち浮かんでくる。  のどかで、どこまでもはてしなく続く平野、てっぺんに一年中白い帽子をかぶったままの尖った山々、そんな色の少ない土地を彩る、無数の星々。  誰かがこちらに向かって手をふって走ってくる。芋の煮た料理の匂いが、どこかの家から流れてくる。  俺もだ、とアスターもかすれた声でつぶやいた。
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