the silent radio

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「課題、そろそろ終わった? 早くしないと試合終わっちゃうよー」  せかすような声に、アスター・タイムロットは机から顔をあげた。気づけば教室はずいぶんと薄暗く、向かい合っていたプリントには自分の手の濃い影が長く伸びていた。 声の主は、手に持った水晶玉型受像機で試合の中継を見ていたジムだ。さっきから落ち着きなく机の上で足をぶらつかせている。  放課後の教室にいるのはアスターとジムの二人だけだった。心なしか、教室だけでなく校舎全体がひっそりとしている気がする。それもそのはずで、今日はキャマレイト杯の決勝戦の日だった。生徒たちはみな、南の森の特設スタジアムで試合を観戦している。特に、アスターが所属する第六ハウスは悲願の初優勝をかけた戦いであり、ハウス生はほぼ全員が応援席にいる、ほぼ全員が。 ――行きたいなら自分一人で行けばいいのに。  応援に熱が入るジムを横目で見ながら、アスターは内心ため息をついた。  アスターが今やっている魔法循環についての課題は、次の講義までに提出すればいいもので、別に今日中に終えなければいけない課題ではない。単純に試合観戦に行かないための理由づけだ。だがジムは何を勘違いしたか、アスターの課題が終わるのをご丁寧に待っているつもりらしかった。頼んでなどいないのに。 「悪いんだけど、先行っててもらえるかな。これ終わったら、僕もすぐ行くから」  演技には自信がある。眉を八の字に曲げ、申し訳なさそうにそう言うと、ジムは何か言いたげだったがしぶしぶといった調子で頷いた。
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