3人が本棚に入れています
本棚に追加
調べるとは言っても、乗り越えなければならない重要な問題があった。
扉の向こうが仮説通り無魂の世界であった場合、そこで魔法を使えばすぐに世界政府にバレてしまう。そうなったらすべておじゃんだ。そのため、調査に魔法は一切使えない。魔法を持たなかったはずの自分が、魔法が使えないことに不便さを感じるようになったことに、アスターは軽くショックを覚えた。
「先輩!」
コの字に並べられた机が置かれた長細い教室に入るなり、デンがまるで尻尾をふる犬のように近寄ってきた。
「今月の園内新聞見ましたか? 私の記事が載ってるんですけどー」
「レプトスはいる?」
デンの言葉を無視してそう訊ねると、「彼なら今日は欠席だと連絡が来た」と、デンの背後でレジュメを配っていた四年生のコスモスが答えた。
「それから、あと二回休んだら除名だってあのチャラチャラした遊び人男に伝えておいてもらえる?」
「オッケー……」
これ以上休んだら、俺も除名になりかねないな、と内心コスモスの言葉に苦笑しつつ、アスターはレジュメを受け取った。
「それ、ラジオ?」
「え? ああ、そうだよ。見る?」
タキユリがアスターのポケットからはみ出したラジオを見ていた。ラジオを差し出すと、タキユリは「ありがとう」と慎重な手つきでそれを受け取った。そしてしげしげと注意深く観察したあと、一言
「重たいし厚い」
と呟いた。
「そりゃまあ。中に部品や機械がたくさん入ってるから」
「なるほど。こっち側のは何?」
タキユリはラジオを裏返した。
「そっちはカセットプレーヤー。カセットテープっていう音楽を記録できる媒体をその中にセットすると、テープに録音された音楽が聴けるんだ。俺は持ってないから、使わないけど」
「見た目は似ていても、本当にこっちの工業製品とは違うんだな。魔法界の物は呪文が入っているだけで中身は空っぽなのに」
タキユリは感心したようにもう一度ラジオに視線を戻した。解体する気なのでは、と一瞬感じた怪訝はすぐに拭い去られた。タキユリは観察しをえると、すぐにアスターのもとに返した。
最初のコメントを投稿しよう!