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「ウォークマンって言うんですよね」
話に加わってきたのはデンだ。
「よく知ってるな」
純粋に驚くと、デンはリュックを椅子に降ろしながらへへん、と鼻の下をかいた。
「無魂の世界のことに関しては、ちょっと詳しいんですよ、私。友達に無魂世界の物のコレクターがいて」
「コレクター? 無魂世界の?」
「はい。密輸品の」
デンはあっけらかんと頷いた。その言い方があまりにあっさりとしていたため、一瞬聞き間違いかと思ったほどだ。
「結構安い値段で闇マーケットで出回ってますよ、違法取引でこっちの世界に持ってこられたもの。それを収集してる友達がいるんです」
そういえばデンが秘密結社ペンドラゴン会の幹部だったと、今更ながら思い出す。教授たちに目をつけられまくっているお騒がせ集団の幹部なだけはあると、アスターは変に感心した。
「よく捕まらないな」
話を聞いていたタキユリが、真顔のまま言った。表情が変わらないので、褒めているのか非難しているのかはよくわからない。
「その辺はまあ上手くやってるんじゃないですかね。ビデオテープをね、よく見せてもらうんですけど、あっちの映画を観るのってすごく面白いんですよ」
デンはやや興奮気味に語り、声がだんだん大きくなってくる。
「話とか役者の演技とか演出も面白いんですけどね、無魂の世界の生活がわかるじゃないですか。どういう服を着てるとか何を食べてるとかどういう街に住んでるとか。そういうのが全部面白いんです。さっきタキユリはそのラジオがこっちと全然違うって言ったけど、映画を観てる分には、あんまり変わらないんだなって思いましたよ。人が考えてることとか、感じてることとかは。この前見たのはね、恋愛映画なんですけど、ある国の王女様と新聞記者の一日だけの恋。王女様は自由の無い生活に嫌気がさして、お城を出ていっちゃうんですけど」
オホン、と大きな咳ばらいがした方に視線をやると、今日の司会のコスモスがアスター、デン、タキユリの三人を睨んでいた。慌ててプリントに視線を戻すと、「それじゃあそろそろ始めます」と会の始まりを告げた。
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