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やっと行ったか。
教室から出ていくジムの背中を見届けると、アスターは大きく伸びをした。
この春から同室となったジム・コールキンは根っからの善人なうえに驚異のお人よしで、アスターにとって非常にやりやすい、言い方を変えれば都合のいい同居人(ルームメイト)だった。学校に来てまだ日の浅いアスターを何かと気遣ってくれ、成績や教授の態度のことで他の生徒からやっかみを受けやすいアスターをいつも庇ってくれる。しかも、アスターのことを完璧な優等生と信じているらしく、それを一ミリも疑ったりなどしないのだ。
試合を見に行くつもりははじめから全くなかった。スポーツはやるのも見るのも興味がなかったし、にぎやかな場所が好きではない。まして、たかだか一年半前に転入してきたアスターには、愛寮精神などもっとない。
適当にきりのいいところで終わりにして、さっさと自分の部屋に帰って本でも読もう。そう思ってふたたびペンを取ったとき、ふと視線を感じ、誰もいないはずの廊下に出た。すると、扉に寄りかかり、床に座るジムと目が合った。驚くアスターの顔を見上げ、ジムは歯を出してニイと片頬を上げた。
「試合、見にいったんじゃ……」
「君、絶対行かないだろ。待ってるから早く終わらせてよ」
「……それはどうも」
アスターは自分史上最高の愛想笑いで答えると、内心毒づきながら、アスターは手早く荷物をまとめた。
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