the silent radio

4/6
前へ
/90ページ
次へ
 アスターがスタジアムの観客席に座ったときには、すでに試合はロスタイムを終えたところだった。  試合は接戦だった。アスターの見たてでは、味方チームは総合力では相手チームに勝っているようだが、それが逆に決定力に欠けているように見えた。しかも敵チームには超人的な身軽さとスピードで矢を払い、次々と射抜いていく選手がいた。レディ・トゥエルブと呼ばれるこのエース選手のせいで、試合は撹乱され、なかなか得点に結びつかない。ジムいわく、「レディ・トゥエルブはしつこくてしぶとい」らしい。  結局、282対281で、十二寮が勝利した。アスターの所属する六寮は十二寮の三連勝を阻止することができず、同時に悲願の初優勝も逃した。 「これから寮で打ち上げだね!」  シートから立ち上がり、興奮さめやらぬ様子でふりかえったジムがアスターに呼びかけた。空から降ってきた十二寮カラーの濃いグリーンカラーの紙ふぶきを頭に大量に乗せ、顔はだらしない満面の笑みだ。  巨大なライトの、昼間のように煌々とした明かりによって照らされたコートでは、赤髪のレディ・トゥエルブが、巨人のハーフなのではと思うほどの重量級のキャプテンに持ち上げられて、中から火花が吹き出る優勝杯を掲げて一周していた。引き上げる寮生たちは、残念がってはいるものの、ジムみたいな笑顔だった。優勝は逃したものの、例年下位リーグ準優勝どまりだった記録を一気に押し上げた今年の六寮チームの健闘を誰もが称えていた。もちろん、アスター以外は、だが。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加