the silent radio

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「先に行っててくれ」  寮へ戻るバスに乗る直前、アスターはそっとバスを待つ列から離れた。  どこへ行くでもなく、気の向くまま夜の森を進んでいく。人々の喧騒はどんどん遠くなり、葉が風にこすれる音と夜鳥の声が大きくなってくる。スタジアムの昼間のような明かりも、いつのまにか鬱蒼とした木々の陰に隠れていた。やっと、ほっとしたように息をつく。  その時、突然アスターの前に何かが飛び出してきた。 「どこ行くんですか? 先輩って本当、存在感を消すのがお上手ですよね」 「……君こそこんなところにいていいのか。ハンプティア三年連続優勝の立役者のくせに」  アスターの言葉に目の前にいる人物はわざとらしく肩をすくめると、なんでもないという風に手をヒラヒラとふった。 「いいんです。だってうちの寮の人、とにかく飲んで踊って騒ぎたいだけなんですよ。私がいようといまいとおかまいなし」  ほんのさっきまで、スタジアム中の視線の中心にいて、優勝杯と教授に熱烈なキスをしていたとは思えないほどの冷静さで、レディ・トゥエルブは言った。そして何を思ったのか急にアスターに顔を近づけ、アスターがつけているヘッドフォンのコードに触れた。 「ねえ、いつも何聴いてるんですか」 「なんでもいいだろ」 「私、試合中、コートから先輩のことを見てましたよ」 「ずいぶん余裕なんだな」 「だってキャマレイト杯の決勝戦で、それも自分の寮のチームが戦ってるっていうのに、試合なんか見もせずラジオ聴いてる人なんて他にいないもん」 少しムッとしたような顔をしてそう言ったあと、「音楽?」と訊ねた。 「別に」  アスターが歩き出すと、彼女はそのまま黙って後ろをついてきた。
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