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その日は、店長がいつもにも増して不機嫌だった。
今日の店長、二割増しくらいの仏頂面っすね。」
パートの藤本が言ってきた。
藤本は大柄で太めで、一日の50%が無駄話でできている。
「原因はこれだろう。」
休憩室のテーブルに1枚のデカデカとしたチラシを、主任の梶原が投げてきた。
「今日からグランドオープン、しかも、うちのすぐ近所。」
「これ、グッドライフじゃないっすか!大手じゃん!うちを潰しにきたー!」
私は場の空気を読めない。
脳みそで思っていることが、すぐ口から流れ出てしまうのだ。
「マジでヤバいっすね。」
藤本も言った。
「今日は客、全部持ってかれるぞ。」
主任の表情が曇る。
「大丈夫ですよ!だって、グッドライフとはうち、毛色が違うじゃないですか!グッドライフと言えば、インテリア系でしょ?うちは、ハード系。チェンソーや電動ドリルをじゃんじゃん売ればいいんですよ!」
私の能天気な発言に主任はため息をついた。
「じゃあ、水戸は普段チェンソーやドリルを買う?」
「・・・・・いいえ。あ、でもうちは、アフターもしっかりしてるし。
修理なら、矢口くんがバリバリ出来るじゃないですか!」
「ぜんぜん答えになってないけど。」
「うっ・・・・」
わがナイス菅井店に、暗たんたる雲が翳ってきた。
その日の店の売り上げは、その月の最低だった。
しかも、その後も不調は続き、さらに悲劇は襲う。
なんと、近所に、もう一軒、大型電気店までが出店してきたのだ。
商品のラインナップは当然、ホームセンターなどより充実している。 店長は頭を抱えた。
「うちも負けないように、何かイベントをやらなければ。」
店長は本部に提案書を出し、バイヤーに問屋に働きかけてもらい
特売目玉商品の値段交渉を依頼した。
「よし、調査に出かけるぞ。」
店長が副店長を引き連れ、グッドライフに密かに探りを入れることにした。
「グッドライフより、安くてよいものを、お客様に提供するんだ。」
店長はそう息をまいて、出かけて行った。
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