第1章

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 フェイスが研究室に出勤すると、机の上に一つ封書が届いていた。 不躾にも封書の外側に送り主の名が書いてない。 消印はトルコーになっている。  フェイスはペーパーカッターで封を切り、中の便せんを取り出した。  シーラスの字だ。 が、やはりその手紙には差出人の名前がない。  その理由は、中身を読めば何となくわかった。 「ゴルチェ艦隊は六月一二日、ファンバー沖海戦にてウォロス艦隊と激突して完敗し、主力戦艦五隻が撃沈された。  新聞発表を信じるな。  和睦交渉を始めるところだ」  ただこれだけの、短いぶっきらぼうな手紙だった。  先日の新聞発表では、 「ゴルチェ艦隊、精強なウォロス艦隊に対し堂々戦い、甚大な損害を与える」 という調子で、勝ったも同然のような記事が踊っていた。 真逆である。  フェイスは、半年前に会ったヨースの顔を思い出した。 戦況について、口止めされている。 だが、シーラスのこの短い手紙が意図しているのは、恐らく「お前なりに動け」だろうと思われた。  フェイスはパイプに火をつけ、しばらく考えた後で、席を立って学生たちのスペースへ行った。
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