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フェイスは、そこまで悲観的ではなかった。
世界の情勢としては、どこかの国が突出して強い状況を好まない。
それぞれに利権がある。
政府がよほど愚かでない限り、それらのバランスをうまく調整して、軟着陸を図るだろう。
むしろ問題は、多額の賠償金や領土割譲などによる混乱だと、フェイスは見ていた。
さてその夕方、フェイスに来客があった。
若い男で、随分弱々しく、目つきが怯えたような男だった。
どこかで見覚えがある。
「誰だったかな、顔は憶えてるんだが」
フェイスは素直にそう言った。
男は少し拗ねたような顔をしたが、やがて、
「冬は、その、列車での揉め事を起こした時は、迷惑を掛けました」
と、暗い声で言った。
フェイスは思い出した。
列車でもめ事を起こして、フェイスが仲裁に入った時の下級貴族の若者だった。
「あぁ、あの時の。
どうした、仕事がまだ見つからんのか」
フェイスがそう言うと、若者は実に居心地の悪そうな顔になった。
不況で仕事がない。
それはこの若者だけでなく、労働者層で広がりつつある難問だ。
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