第1章

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 フェイスは、そこまで悲観的ではなかった。 世界の情勢としては、どこかの国が突出して強い状況を好まない。 それぞれに利権がある。 政府がよほど愚かでない限り、それらのバランスをうまく調整して、軟着陸を図るだろう。  むしろ問題は、多額の賠償金や領土割譲などによる混乱だと、フェイスは見ていた。  さてその夕方、フェイスに来客があった。  若い男で、随分弱々しく、目つきが怯えたような男だった。 どこかで見覚えがある。 「誰だったかな、顔は憶えてるんだが」  フェイスは素直にそう言った。 男は少し拗ねたような顔をしたが、やがて、 「冬は、その、列車での揉め事を起こした時は、迷惑を掛けました」 と、暗い声で言った。  フェイスは思い出した。 列車でもめ事を起こして、フェイスが仲裁に入った時の下級貴族の若者だった。 「あぁ、あの時の。  どうした、仕事がまだ見つからんのか」  フェイスがそう言うと、若者は実に居心地の悪そうな顔になった。 不況で仕事がない。 それはこの若者だけでなく、労働者層で広がりつつある難問だ。
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