第1章

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 つい先ほど『ラブコメ研究会』に属する一人のオタク野郎から半ば強制的に押し付けられた美少女ゲーム。何か感想を言わないと面倒そうだし、それに初体験のジャンルであり少なからずの興味があったので、両足を机の上に放り出しつつこうして携帯ゲーム機をポチポチしているわけだが、……まぁ俺の趣味ではないね、コレ。  たかが二次元平面で繰り広げられる恋愛劇、と三次元の恋愛には奇跡的にご縁の無い俺が言ったところで虚しいだけだが。ただ、一人特定のヒロインを選ぶ形式には何となく好感を持てる。爽やかな学園青春ラブコメディはやっぱりそうでなくちゃぁな。攻略完了(ゴール)前にダブルヒロインと修羅場を経験するのは構わないが、いつまで経っても選択から逃げる鈍感主人公は少年マンガがライトノベルで勘弁してほしいね。  ま、何にせよ恋愛未経験者特有の上から目線意見なんて誰の参考になるものでもない。だから恋愛の味を知らない俺に青春要素を届けさせようとしてくれた彼には一応、感謝の意を示そうじゃあないか。  画面に淡く反射する生気の薄い顔に嫌気が差し、乱雑に伸びた髪を掴むように掻きつつ赤髪ショートの美少女からふと顔を上げると、 「……――うんうん。つまり、ちょっと前までは普通に仲良かったのに、最近になって距離を置かれるように感じた……、そういうことだよね?」  二人の女子生徒が前方出入口傍の机で相対し座っている。教室の後ろ半分が机、椅子置き場として利用されているおかげで狭苦しい空間の中、俺を含めた三人の人間がこの部屋にいた。 「そうなの、一緒に遊んだり宿題やったりしてたのに……。私、距離置かれるようなことした覚えは全然……」  同情を誘うように溜息をつきつつ、本日、我が青春部にやって来た相談者は寂しくそう告げ、続けざまに、 「声を掛けても……なんか他人行儀っていうか……。変な例えだけど、恋人に愛想尽かされたって印象を受けたような……」  声を掛ける練習台ならここにいるがな。話が弾む保障は全くないが。……というか、一度くらい挨拶……せめて目配せしてくれ。  ならばこちらから目配せしてやると、 「…………ひっ」  おっ、声が震えるくらいに感激してくれたようだ、よかった。ただ、これ以上感激されても相談の邪魔になるので、サッと赤髪少女に顔を戻すことにしよう。先ほど以上に死にそうな顔がそこには映っていた。
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