第1章

7/128
前へ
/128ページ
次へ
 ともかく盗み聞きした相談内容をまとめると、『これまでは仲の良かった友達の一人が、最近になって理由もわからず自分によそよそしい態度を取るようになった』とのことらしい。ま、日頃から対人関係には細心の注意を払っているこの神宮寺善慈、相談に乗ってやってもいいが、 「私もあるよ、そういう経験。直接その子に会ったわけじゃないから本音はわからないけど、たぶんその子の友達付き合いが変わったからだと思うよ。友達の間に上と下の関係ができた……、そうじゃないかな?」  ――彼女が相談に乗っているのならば、わざわざ俺が出る必要はないだろう。  年上のお姉さんのような語り口調で意見を述べ、安心を与えるように口元を綻ばせた相談員。 「えっ! なら私って……下に見られるようになったってこと……?」 「残念だけど、今はそうかも。でもね、それって向こうが勝手にそう思い込んでるだけ。本当に仲が良いなら、ちゃんと心は通じ合えてるはず。大抵はしばらくしたら元通りになるよ」 「そっ、そうかなぁ?」 「実はそういう相談、結構あって。でも、さっきも言ったけど自然に放っておくのが一番だよ。変な横やり入れると余計おかしくなっちゃうし。それでも関係が回復しないようだったら、もう一回ここに来て。そのときは私たちが動いてみるよ」  と、余裕たっぷりに相談員は言い切ったのだ。  その言いっぷりは相談者の気持ちの曇りを晴らさせたのか、 「わかった、そうする! 今日はありがとうございました、桜庭さん!」  サッと立ち上がると相談員に深々とお礼し、出入口の扉を開け、そうして軽い足取りで彼女は部室から出ていったのであった。  出入口に寄り、軽い笑顔で手を振りお見送りをした相談員。完全に見送ったのち、クルリとこちらに翻る。その端正な顔立ちをまざまざと見せつけるように。  彼女は柔和な顔つきを崩さないまま、部屋の隅で二次元の美少女と面談する俺の下まで歩んでくる。身長は女子高校生の平均程度だが、それ以外は文句の付けようのないスタイル、身に纏う制服の着こなしも優等生のごとく抜群な彼女。  彼女は窓際に寄り、しなやかな指を滑らせるようにガラスへと触れた。差し込む太陽の光が、他とは変えがたいその美貌を鮮明にくっきりと映えさせる。  神にも愛された天性のメインヒロインはパッチリとした切れ長の目を細めて外を眺め、静かに小さな口を開け――――、
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加