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「――――ふーん、ご苦労なこった。もう学園祭の準備を始めるなんて。絶対心の中で実行委員にキレてるよ、クラスメイト」
背筋をも凍らせるような冷たい口調、見下した目つきでそう言い放った黒髪ロング。
すると冷酷な目つきのまま、彼女はこちらを確かに見定め、
「さっきから不気味なオーラ出しやがって、ガラ悪すぎ。相談者、怖がってたじゃん。まったく、地味なら地味らしくしてなよ。女子の取り扱い苦手なクセして下手に目配せして……」
サッときめの細かい黒髪を掻き上げ、俺が座る椅子を乱暴に蹴り、
「それに労いの言葉くらい掛けてよ。……え? あっ、やっぱ声掛けは遠慮して。死んだ顔して気のないしゃべりで労われても気が滅入るだけだし」
「………………」
見下すように言い放ったのち、さっきまでのお姉さま態度はどこにやら、ドサリと音を立て黒髪ロングは隣の椅子に座ったのであった。
――――桜庭(さくらば)かなえ。青春部、部員ナンバー2。
癖のない黒髪ロングは背中中段あたりまでスラリと伸び、適度に切り揃えられた前髪は水玉模様の洒落たヘアバンドで留めてある。
桜庭は机に肘を付き、女神のごとく整った顔立ちを惜しげなく見せつけながら、
「それでどんな女の子を攻略するの? やっぱりキミの趣味ならこの地味系黒髪巨乳?」
艶のある桃色の唇から紡がれるのはそんな言葉、いろいろと台無しだ。
スラリと綺麗な指が差したのは『園村れいな』という名の攻略キャラクター。外見は指摘どおり地味な容姿の黒髪ショート、身体つきは大半の男が喜びそうな数値設定だ。
「もうやんねぇよ、ツマラン。選択型紙芝居の何が面白いんだか。ラブコメ研究会はメチャメチャ勧めてきやがったけど、俺の趣味には合わんな。つーか桜庭、お前もガラ悪すぎだ」
俺がそう言えば、桜庭は蔑むがごとく細めていた目をパッチリと開け、ニコッと小悪魔フェイスを差し向け、
「ゴメンね、調子乗っちゃって。ギャルゲーやってる善慈くん、痛々しかったからイラついちゃった。てへっ」
「なんだ、構ってほしいのか? ならアレに構ってもらえよ」
俺が指差したのは、人の座高ほどの高さはあろうかというファンシーなクマのぬいぐるみ。ほぼ机と椅子しかない殺伐とした部室にポツンと置かれた『まーぽん』という名のそれは、我が青春部のマスコット的存在だ。
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