第1章

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「もう、いくら面倒だからって、とびっきり可愛いこの私の世話をぬいぐるみに押し付けるのはどうなの?」 「いや、桜庭が一人の時、メチャメチャ嬉しそうにぬいぐるみ抱いてるんで――……」 「まっ、まいっか、ゲームやろ! 善慈くんの相手するより千倍面白いしっ」  そう言ってスクールバッグの中からそそくさと携帯ゲーム機を取り出すと、電源ボタンを押して姿勢よく画面に面と向かう。……まったく、風に靡くカーテンを背景にして(カーテンないけど)活字に目を通しているほうが幾ばくか絵になりそう外見なのにな、勿体ない。黙っていれば尚のこと。ま、両親がゲーム開発の企業に勤めているなら中毒になるのも致し方ない。 「あっ、善慈くんはゲーム禁止。二人が無言でゲームに噛り付いてるのってなんかキモイし」  勝手に俺のスクールバッグを弄り、古典の教科書とノートを取り出した桜庭。 「ってうわ、エロゲー入ってる……。気持ち悪い……」 「人のバッグ勝手に捌くっといてキモイ呼ばわりすんな。つーかそれ、ギャルゲーと一緒に押し付けてきたんだよ、ラブコメ研究会の連中がな」  俺は携帯ゲーム機を仕舞い、桜庭の手に取ったそれを受け取った。 「ふーん、そっか。まあ性欲なさそうだもんね、キミ。いっつも自虐ばかりしてて自分慰めることあまりしないし」  とんでもない一言をサラリと述べやがった気がするが、……まあいい。気を取り直して古典の教科書とノートを開いた俺。と、その時、 「ねぇ、一つ訊いてもいい?」  ポチポチとゲーム機を操作しながら桜庭は尋ねてきた。小悪魔的態度から一転、真面目な雰囲気を醸し出す。 「どうした?」 「いや、そんなに深いことじゃないけどね。軽い気持ちで答えてくれればいいけど」  そう前置きをしたのち、 「さっきの相談者さんの悩み、善慈くんならどう考える?」 「あんまりピンとこなかったな」 「いい友達が多いんだね。……あっ、数は少ないか」 「失礼な一言はいらん」  少ないという事実は反論しにくいが。 「私は痛いほどわかったよ、あの相談。なんかさ、自分の居場所を高いレベルだって勝手に決めつけて、それまでの友達を蔑んじゃう人っているんだよね」 「でも桜庭って人望あるじゃねぇか。何もしなくても人が集まってる印象があるわ」  桜庭は鼻で笑って、 「今はそうだけど、中学時代は……」  だが言いかけたところで、ゆっくりと首を横に振り、
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