第1章

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 今日は隣のカフェが開店する日だ。  僕は佐藤新市。ここから五駅先の公立大学の教育学部の三年生だ。賃貸アパートに一人暮らしで週に三回居酒屋のバイトをしている。  秋が深まる少し寒い朝、店の前を通った。住宅街の一角に出来たガラス張りのちょっと洒落たカフェは暇つぶしにくつろげそうな気がした。  今日はバイトが休みで学校が終わると寄り道せずに家路についた。通りがかったカフェの前には小さな開店祝いの鉢植えの花が飾られていた。ガラス窓越しに見えた店の中は会社員風の男が一人テーブル席に座って、レジのカウンターにエプロンを着た中年の男が立っていた。客の男より年上に見える小太りなオジサンだった。多分脱サラしてカフェで第二の人生を始めたのだろうと何となく思った。  開店初日に行くのが気恥ずかしく思った僕は店の前を通り過ぎて、家に帰って課題のレポートを書いた。 辺りが暗くなって僕はコンビニに弁当を買いに店を出た。店の前を通った時には閉店の看板が立っていて中であのオジサンが掃除していた。 コンビニで時間を潰してまた店の前を通りがかった時には照明が消えて道に面した大きなガラス窓にブラインドが下りていた。  あの位の年齢なら夜遅くまで店をやるのは大変だろうと思いながら僕は帰宅した。  翌日、僕はいつもの時間に家を出てカフェの前を通った。店は閉まったままだった。この店はモーニングサービスをせずに日中だけやって儲かるのだろうかと少し心配になった。  昼休み。キャンパスでパンを食べながらぼんやりしていると「おい」と高校時代からの友人の峰沢博が話し掛けてきた。僕も「おう」と軽く答えた。  「バイトは順調か」  「ああ、まあまあだ。きついけどな」  峰沢と僕は軽く世間話をしながら食事をした。  「お前、まだ彼女できないのか」  「はあ?この前別れたばかりだぞ」  僕は半年ほど付き合っていた子と先月別れた。別に喧嘩した訳じゃなかったが何となく会っても楽しくなくて彼女も退屈そうだったし、それじゃ別れようかって感じであっさりと終わった。それで終わる位の浅い付き合いだった。  僕の軽い返事に峰沢は笑って  「お前、意外とタフだな」 と言った。
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