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「いつ、英和貸して」
「あたしが昨日言ったこと、もう忘れたの?」
部屋に入ると同時に振り向いた姉ちゃんが、溜め息混じりに問いかけてくる。
「…何か言ったっけ?」
本当は覚えてるけど。ここは敢えて、知らぬ存ぜぬスタイルで。
ほら、怒りだすぞ。
「Damn it!Knock!Do you understand it?!」
中学生の頃から英語が大得意。俺には到底わからない単語をポンポン並べて、乙美はいつも俺を攻撃する。
「何て言ったの?」
「くそ!ノックしなさい!わかった!?」
「“ノック”って単語だけ聞き取れた」
「これで勉強しろ!Get out!!」
投げつけられた英和辞典を右手で軽くキャッチし、ドアのハンドルに手をかける。
「“くそ!”なんて言ってたら、彼氏に振られるぞ。お姉ちゃん」
最後の“お姉ちゃん”に、少し嫌味ったらしさをプラスする。最後にそう呼んだのはいつだろう。
「Shut up!Be fagged out!」
「今のもどうせ悪口だろ」
「わかってるなら出て行きなさいよ」
我が姉ながら、情けなくなるぐらい口が悪い。たった二人のキョウダイだというのに、俺は毎日暴言のサンドバッグにされている。
「冷たいお姉ちゃん。くすん」
「気持ち悪いから。早く出て行って」
「ふぁーい」
握ったハンドルを下げ、俺は大人しく乙美の部屋を出た。
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