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髪の再セットに時間を取られ、いつもより一本遅い電車に乗る。乗った瞬間、ライティングの朝の小テストの存在を思い出し、変な汗が出てきた。
そんなの大したことないと思われるだろうが、俺にとっては大問題なのだ。中学の頃から英語の成績が壊滅的に悪い俺は、こういう小さいところで点数稼ぎをしないと内申がとても危ない。
なんとしても国公立に行きたいのだ。理系が得意でも、それだけじゃ到底全国の猛者共に勝てるわけないっていうことはわかっている。
乙美の彼氏も理系が得意っていうけど、文系科目もできなきゃさすがにトップ5には入れないだろう。
「英語、教えてもらおうかしら…」
姉よりよほど頼りになる気がする。あんな猛獣を飼い慣らしている男だ。きっと、根気強く教えてくれるだろう。
「あ、柊くんだ。やった、今日は一人!」
「はい?」
声のする方を見て、すぐに理解した。この時間の電車は、うちの高校の最寄駅から二駅離れたところに所在するお嬢様学校の生徒さん御用達なのだ。
乙美というボディーガードがいない今、最大のピンチを迎えている。こんな満員電車の中じゃ、思うように身動きも取れない。まあそれは、相手も同じなんだけど。
「この時間に乗ってるの、珍しいですねー!」
「そうですねー!乗るつもりはなかったんですけどねー!」
「今日はどうしたんですか?お一人ですか?」
「見ての通りですよ」
とにかく、今は小テストのことだけ考えないといけない。お嬢様にかまっている暇はないのだ。
でも、普段凶暴な女性を見ているから、こういう清楚で可愛らしい女の子はなかなか新鮮だ。裏では何やってるかわかんないけど。
「今度からこの電車に乗ってくださいよー」
「ん。考えておくね」
電車が減速し始め、最寄駅が見えたところで胸を撫で下ろす。やっと解放される。
「じゃ、また“いつか”ね」
「はーい」
電車を降り、車内で嬉しそうに手を振ってくれる女の子を見送って俺はすぐさま走り出した。
小テストのことが頭から離れない。
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