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不思議なメロディー
在宅の仕事をしている。
外出は普通にするけれど、基本的には家にいる。そのせいか、外からする物音に敏感になった。
特に意識に入り込むのが楽器の音やアナウンス音声で、それらが響くと耳を傾ける癖がついたせいか、音だけで近所に何がいるのかが判るようになった。
あの、独特の節回しの笛みたいな音は豆腐屋さんだ。
あの曲は焼き芋屋さん。夏はアナウンスがわらび餅に変わるから、兼業なんだろうな。
あっちは、最近少なくなった気がする廃品回収だ。リサイクルショップやステーションが増えたせいで、回収は大変だろう。
でも、今曲を流しながら移動している竿竹屋さんは、なんかそれをタイトルにした本があったけど、凄まじいロングランで活動してるよな。
窓外から聞こえてくる色んなメロディ。それらを聞きながら、それを奏でる職種を想像する。
でもどうしても一つだけ、何屋がどんな目的で流しているのか判らない曲があった。
長さ的には豆腐屋くらい。でもあんなには響かない。
ごく近くでなら聞こえる程度の音量で、その曲は流される。
晴れやかな感じはしない。でもそこまで重くもない。際立って特殊ではないのに、妙に耳に残るメロディ。
曲を流す以上、目的は集客だろう。だったらそれは何屋なのか。
答えが知りたくて、メロディが聞こえるなり屋外に駆け出したこともあるけれど、音源に辿り着くこともできずに失敗した。
そんなことを何度か繰り返す内に面倒になり、たまにその曲を聞いても、もう外に出たりはしなくなった。
そして少しばかり時が過ぎたある日、珍しく、外出先でその曲を耳にした。
あの、耳に残るメロディーが聞こえる。音源はかなり近くだ。多分、今なら曲の出所を探し当てられる。
聞こえる曲を頼りに進んで行くと、だんだん音が近くなる。おそらくは、この角を一つか二つ曲がれば、その辺りに音源の何屋だかかいる筈だ。
心もち急ぎ足で音の方に進むと、曲がり角近くにいるおばあさんの姿が目に入った。
真っ白な髪の小柄なおばあさん。腰がうんと曲がっていて、杖代わりにした乳母車を押しながらゆっくりと歩いている。
結構な恒例だろうに、まだまだ散歩とかできるんだな。
進みながらぼんやりそんなことを考えていたら、ふいにおばあさんが俺の方を振り返った。
皺だらけだが温和な顔をしている。その人が話しかけてくる。
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