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客人は快く出迎えられ、客間らしい部屋に案内される。こじんまりとした洋間には、陽光のほとんど当たらない代わりに、色とりどりの鉱石が壁を眩しく照らしていた。
若い客人は、どこか異様な部屋に呆気にとられてしまっている。
「この店は、鉱物を取り扱っておりますの」
少女の様な容姿の割りに、とても大人びた口調の不思議な女。
おほほ、と妖しく笑う女の艶かしい口元に客人は釘付けだった。
その時、地響きにも似たものすごい音が、隣の壁を突き破らんばかりに近付いてきた。
続いて、目の前で木っ端微塵に吹き飛ぶ、壁。
「こほっ、けほん」
驚愕の瞳で隣の壁を見つめる二人の前に煤だらけの男が転がり落ちてきた。
「あれ?こっちじゃなかったかなぁ」
しきりに乗り物らしき機械を弄くっているが、不穏な煙を吹き出したままうんともすんとも反応していない。
作業をする手を止めて、ふっと男がこちらを見上げた。
銀髪のもつれ髪や不健康そうな浅黒い肌には煤が散っており一見しては分からなかったが、顔立ちの整った見目の良い容貌をしているようだ。
はた、銀髪の男と隣の女の目が合う。
男はゆっくりと客人に目を移し、だらだらと冷や汗をかき始めた。
女のまんまるに見開いた瞳がみるみる険しく光り、形の良い眉がつり上がっていく。
「何、してるのかしら?」
隣の女が顔を伏せって肩を震わせながら、訊ねる。
あまりの黒いオーラに男も客人もビクッと姿勢を正した。
「いや、あの…はは、昨日GHMの試作品No.56が やっと完成したからさ。ホラ、試運転?やりたくなっちゃって…」
はは、お邪魔かな。とそろりそろり後退し始めた男の肩を、ガシッと白い手が掴む。
「仕事の邪魔はしないと約束したのではなかったかしら?あれほど言ったのに?」
不意に上げられたその顔の恐ろしいことは、言葉では表せない。と後々客人が青い顔でこぼしていた。
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