第1章

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 ーー歴史上には残らなかった時代の隙間に、丈雁(じょうがん)の時というものが存在した。  当時の治安はめっぽう悪く、人の暮らす都が大きいほど様々な悪人もひしめいていたという。  とある居住区の大通りの一角を抜けると、たちまち物取りに襲われてしまうような所が大半であった。  そんな荒くれた処に住む一般市民など居るはずもない。廃墟と化したはずの町の端っこに、今にも崩れてしまいそうなおんぼろ屋敷が在った。  一昔前はたいそう立派だったであろう門構えは傾き、荒れ放題の庭には雑草が生い茂っている。  無造作に立て掛けられた看板には、妙に上手い字で「すぴりちゅある阿羅(あら)」としたためてあった。  どうやら此処は店らしい。  でかでかと掲げられた看板然り、屋敷の佇まい然り、どうにも胡散臭いことこの上ない。  しかし、妙に気になるのも事実である。私は古びた格子の戸を苦労して開け入った。    
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