Side 神楽坂愛里

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「それで僕を疑ったんだ。でも、おかしくない? 光はもう死んでしまっていた。仮に斎藤を懲らしめたくてももう遅いよ……」  そこで私は頭を横に振る。いや、違う。坂井さんは最初から斎藤を2番目に殺す気だった。そう、2番目だ。 「坂井さん、あなたへの疑いが確信に変わった最たる理由は、引っ越しそばです」 「……?」  そば。古くから日本で食べられてきた伝統食品だ。私がしたように引っ越しの際の手土産として使われることも多い。  だが問題はそばではない。そば粉に含まれるタンパク質だ。  そばは他の食品より微量でもアナフィラキシーショックなどの重篤な症状を引き起こしやすい。その原因となるアレルゲンが件のタンパク質。先日も学校給食にそば粉が混入し、小学生が亡くなる事故があったばかりだ。  そう、アナフィラキシーショックだ。 「あなたはそばがお好きです」 「うん……神楽坂さんの持ってきたそばは美味しかったよ……」 「そして、あなたの元彼女、光はそばアレルギーだった」 「うん……」 「光は事故死ですが、その死因はアナフィラキシーショックでした」 「……」  そばを誤って口にした光は死んだ。 「あなたは光がそばアレルギーなのを知っていましたね」 「うん。僕がそば屋に行ったときちょうど彼女が倒れていたんだ。アナフィラキシーショックによる呼吸困難で苦しんでいた。すぐに助けたよ。それが僕と光の出会いだった……」  坂井さんは光を救った。 「あなたは大学で動物を扱っていた。軽い動物アレルギー持ちなのに。そういう人の中には、万が一動物に噛まれた際に応急処置ができるよう、アドレナリン自己注射薬(アナフィラキシー補助治療剤)を持ち歩く人がいます。あなたはそれを光に投薬し、命を救った」  私の頭の中のノートにはそう書かれている。  坂井さんと光の出会いは、そば。
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