Side 神楽坂愛里

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「だから、あなたは別れの方法にもそばを選んだんです」  浮気に気付き、アナフィラキシーショックという事故に見せかけて、光を殺した。命を救い、殺した。生殺与奪――1番目のターゲットを殺した坂本さんの気分はどうだったろう。  愛していたのに裏切られ、復讐を遂げて満足? 違う――坂井さんは悲しんだ。自分の愛した光がもういないことを。斉藤という男が現れてからもういなくなっていたことを。  満足などしているはずがなかった。ゆえに、坂井さんは2番目に斉藤を殺す気だった。  同じくアナフィラキシーショックで。 「うーん……光の死亡状況はそこまで詳細に公開されてないはずだけど……。警察も事故と判断したし。第一、光はそばアレルギーであることを自覚していた。最初の一件以来そばなんて食べていない。ちょっと無理があると思います。それとも僕が彼女にそばを無理やり食べさせたとでも言うのかい」 「いいえ。それでは、争った形跡や胃の中の内容物から事件性が疑われてしまいます。あくまでそれは事故でなければならなかった」 「だったら……」 「ですからこれは私の推理です」  私は人差し指を唇に押し当てる。 「殺害手口は、口付け、では……?」 「随分と情熱的だね……」  先程も述べたが、そばというのは数あるアレルゲンの中でも、極めて微量でもアナフィラキシーショックを起こし得るのだ。  例えば、そばを食べ、その状態で気付かれないようにいつも通りキスをすればアナフィラキシーショックを引き起こすこと可能性もある。  警察にそばアレルギーであることが知れても、それは愛溢れる彼氏が引き起こした不幸な事故として処理されてしまう。 「そんな不確実な手段を犯行に使うとは思えません……」 「いいんですよ。死ぬまで何回も繰り返せばいいんですから」  別れのキスを。出会いのきっかけを。何度も、何度も……。  死の口付けを。
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